亀戸

亀戸町三丁目、「天神裏」と称する一円が花街である。

現在芸妓屋 七十五軒、芸妓百三十名(内十一名小芸妓)。

料理屋 九軒。 待合七十六軒。

芸妓屋の七十五軒に対して芸妓の総数百三十名は、一軒平均二名にあたらず、甚だ少い気のするのは自前の芸妓が多いせいである。 昨今駆出しの新らしい花街とちがつて、相当古い歴史を有し、芸妓が芸ごとに身を入れる点でも郊外では屈指の部に属し、劵番亭務所の立派なことでは新市街第一と言つて過言でなからう、位置は亀戸天神の裏門と軒つゞきである。

料亭の主なるもの 

鯰家、鮒林(ブナリン)、福和歌、吉村など。 鯰家と鮒林は名に負ふごとく川魚料屋で昔から此の地の名物。 吉村、福和歌は宴会に適し、殊に吉村は江東一の宴会屋として知られ、時節柄安直主義、頭数があれば芸妓附二三円でオーケーといふ勉強ぶりである。

待合の主なるもの

先づこゝでは「甲子」の名を知らぬ者はなからう、それほど古い「甲子」である。 次では満寿川、寿賀浦、‘高砂、松竹、新きね、梅の家、福本など。

遊興制度

時間制で平座敷一時間大芸妓一円七十銭、小芸妓一円十銭。 本約束(二時間)大芸妓四円四十銭、小芸妓二円七十銭。 但「別座敷」(二時間)はA四円五十銭、B五円五十銭、C六円五十銭の祝儀が附き、「○○外」これは祝儀ばかりでA六円、B七円、C八円。 凡て此の地は斯く三級に別れてゐる。

幇間は二名ゐるが、揚代は芸妓と同額である。

亀戸には此の花街と一町ばかりを距てゝ、玉の井に優るとも負けない大魔窟街があつて、時間外は勢ひその方面に押され勝であるのが気の毒だが、両々相俟つて、土地の繁栄を招来してることも亦争れない事実であらう。