三、大鯉夫婦の放生会 第七章 余録

三、大鯉夫婦の放生会

利根川より瓢箪池へ

慥か大正四年頃であつたと記憶する。 待合茂の家で利根川に漁撈に赴き、長さ三尺余もある二匹の夫婦とも覚ゆる大鯉を取つて来た事があつた。之をかね万料理店へ持つて行き料理して貰はふとした。処が料理人は鯉が余りに大きいので気味悪るがり、之を殺すのは罪だ、何処かの池へでも放してやつたらどうかとの耶、そこで之を湯殿の風呂桶の中に放ち、之を機会に白山芸妓総出の放生会を営もうぢやないかと三業関係者連一同の協議纒まり、一同見番前に集まり、紫の旗十数旒を押し立て、或は手古舞姿あり、或は印絆纒姿を為すものあり、男女総勢数百余名、大鯉を入れた水桶を人足に担はせ、木遣音頭賑はしく市中を練り廻はし、漸次浅草公園に繰出し之を瓢箪池に放ち、『甫無大鯉大王之尊、白山繁昌、無事息災、御家安体ならしめ賜へ』と言つたかどうかは記者は知らぬが、此の意味の文句で読経を唱へ、無事放生会を終つたが、此の催しは新聞紙に迄掲載され、沿道の市民驚異の的となつた事もあるが『此の大鯉は先年おかくれ遊ばしました』とは白山の草分〆吉姐さんの御話。