四 所属芸妓屋と芸妓 第六章 白山三業株式会社現況

四 所属芸妓屋と芸妓

白山三業の所属芸者数は前述の如く二百十一名を算するが、今其短評を各芸妓屋毎に記せば左の通りである。

松田屋

同家の小糸姐さんは明治四十三年七月七日御披露目をやった古参芸妓で、所謂白山の草分であるが、元柳橋で御酌時代から腕を鳴らした、生粋の江戸子。現在は年増芸者として知られ、長唄が得意で、踊りもうまいといふ評判。

成田家

たま龍、おかめ、君太郎、うきな、ちどり等の奇麗首を並らべて居るが、今は休んで居る主人公の力弥さんは同じく白山の草分けで咽喉がよいので評判、半玉のうきなは頗るの売ッ子で、組踊りの建物であるとの風評。(電話小石川六七三丸)

喜楽家

主人公八重子は大正元年十一月二十九日御披露目をした、同じく白山の草分け、常盤津菊三郎さんの名取りで、常盤津と来ては白山一流であるが、外に小美代と呼ぶ可愛い妓を抱えて居る。

万蔦

主人公喜楽は大正四年三月五日の御披露目で、矢張り白山草分の一人、抱えを置かずに一人で八人芸をやるといふ腕ッ利き、一時引いたが今は出で居る。

金むさし

主人公小松は自前芸妓として矢張り抱えを置かずに八面六臂の働き、座敷の面白い芸妓として知られて居る。

梅本

主人公は永年三業の重役をやって居る斎藤奇一氏、梅丸、梅千代、梅太郎、〆勇、小壽々、愛子、梅龍、梅若、百合香等の奇麗首を沢山抱えて居るから、御客さんは撰取り次第だ。(電話小石川五〇七七)

春の家

年増芸妓として有名な〆吉は大正二年七月七日の御披露目、矢張り白山の草分、花街に珍らしく、酒を一滴も呑まずに、御座敷持の上手なのが特長、外に小照、小竹等の美形が居る。

初かね蔦

主人公は吉奴といふ、人をそらさぬ中年増で坐持がうまい。抱えには喜知丸、友奴等の美形が居る。

満壽本

主人公は三業社長秋本平十郎氏、十五、壽福、お喜代等の奇麗首が居るが、孰れもお客をそらさぬ腕利きである。(電話小石川六〇一七)

福家

主人公は照葉と言りて上流家庭の奥様と言ってもよい上品な人、養女の五郎丸は主人公代理として働き、今流行のダンス芸妓として知られ、外に、蝶々、福肋、福栄、かくべ、一二三、とんぼ、おはん、おかる等多数の美人が居る。(電話小石川一一三四)

三浦家

主人公は三業の島田支配人、養女のちよん丸はダンス芸妓として、殆んど白山を代表する程にうまい。而も日本舞踊も土地での代表者、下方は田中佐喜富さんと言ふ名取り。(電話小石川二 六四七)

高村家

主人公は三業の重役高野氏、高菊、高奴、高龍、武男、小富、高代などゝいふ奇麗首を並べ、御客大事と坐持ちに努めてゐる。(電話小石川五三九〇)

福立花

常盤津の妙手菊丸さんの家で、福丸は妹である。姉芸妓は光子、孰れも坐持ちがうまいとの評判。(電話小石川四一八七)

双葉家

双葉といふ土地一流の美人が居る。外に葉子、スミレ等の美形も居る。

福よし

主人公は三業の重役池田氏、照葉といふ中年増を始め、貞丸、福美、年福、若福、福千代、八重菊、千代葉、小貞、小福、小染等多数の美形連が多勢居る。(電話小石川五一六一)

富島家

主人公はお長と呼び、様子のよい中年増の姐さん、抱えには富千代、富勇の二名が居る。(電話小石川八九六)

春本

主人公は元「いろ」といふ年増芸妓で有名であったが、現在は小春と呼ぶ中年増を始め、春奴、春江、いろ子、春駒などいふ抱えが居る、内春妓、いろ子は白山屈指の美人である。(電話小石川六一一二)

分真桝

主人公は、のんきと称し、咽喉のよい、踊りのうまい年増芸妓で外に秀勇、照丸と呼ぶ美形が居る。(電話小石川三七〇七)

初金やまき

しゆん、敏子の二名であるが、しゆんは白山切っての義太夫芸妓として有名である。(電話小石川六七七八)

恵比寿家

主人公は三業重役の菊地氏、娘の千代菊を筆頭に、かづゑ、高龍、音丸、桃千代、花太郎などいふ美形が居るが、千代菊は白山一流の芸妓で、下方の各取りである。(電話小石川四三六六)

福成田

成田屋の分看板で、現在芸妓はまねき(半玉)、うた龍の二名であるが、まねきは白山一流の半玉である。(電話小石川四四二三)

稲の家

主人公は稲三と称し、演芸芸妓として知られ、清元の名取り、妹小稲は白山一流の評がある。

浜沢田

主人公は元円雀と称し、東京で鳴らした娘義太夫語り、浜千代を筆頭に、浜次、浜栄、浜太郎、浜龍、浜子などの美形が居る。浜千代は一時ダンス芸妓として知られたが、長唄もうまい妓である。(電話小石川五五六八)

金久本

金奴、千成、久子などゝいふ美形が居るが、千成は白山一流の美人である。(電話小石川六〇八五)

菊稲家

菊太郎と呼ぶ可愛いらしい妓が一人で八面六臂の働きをやって居る。

福金桐

現在主人公は出て居らぬが、小ゑん、小豊、音菊、菊龍、松菊、清蝶などいふ抱えが居るが、金桐家の分看板で、娘小ゑんを始め、半玉では清蝶、芸妓では菊龍といふ美人が居る。(電話小石川五九六七)

文の家

三勝を筆頭に、小僧、富士子などゝいふ可愛らしい妓が居る。(電話小石川六九七七)

蔦分満寿本

満寿本の分看板で小花、小梅といふ美形が居る。

中三浦

三浦家の分看板で主人公は三浦家の妹であるが、近来非常に発展し、千恵子、ぽん龍、かほる、駒勇、妻龍、二三龍、金龍、染千代、月丸、二三奴などいふ美人揃。(電話小石川六三三八)

駒三浦

同じく三浦家の分看板で、主人公は駒吉といふ年増芸者で新内がうまい、抱えはエス子、小市の二名。

分梅本

梅本の分看板で主人公は梅本の妹である。とし栄、小雲といふ二名のやさしい妓が居る。

初の家

千代駒組さんを筆頭に音千代、照千代といふ可愛いらしい妓が居る。

三芳家

主人公は八千代で、下方の名取り、土地一流の芸妓として知られ、一人で五六人分の働きをやつて居る。(電話小石川二○三〇)

喜代川

主人公は喜代松で、中吉と呼ぶ腕建者な芸妓が居る、外に勘彌、嘉代太の抱えも居る。(電話小石川七二五三)

布袋家

主人公久吉一人で稼いで居るか、御座敷の面白い、咽喉の良い中年増の芸妓として知られて居る。

新中成田

主人公は若次で、外に若彌、お七と呼ぶ美形が居る。(電話小石川七九一)

分福よし

主人公は美よしと呼び、福よしの分看板、而も福よしに居つた六年間、一日も休まなかつたといふ精勤家である。抱えは龍若、龍勇、松龍、千代龍の四名。(電話小石川五六九二)

新梅本

主人公は錦彌と称する御侠ん肌の姐さん、梅本の分看板、妹のつや香と二人で稼いて居る。

分寺島

主人公京光は現在休んで居るが、太義夫芸妓として一時は随分と鳴らしたものである。半玉仕込みの人丸といふ美人を抱えに持つて居る。

福蔦

主人公を蔦八と呼び、茶目八、蔦夫と称する各方面から引張り凧の売ッ子が居る。(電話小石五一七一)

分三浦

三浦家の分看板で、主人公は現在休んで居るが、さち子、すま子、幸四郎、さち丸といふ美形が居る。

主人公は目下休んで居るが、二郎と呼ぶ売つ妓が居る。(電話小石川三七九九)

小松家

主人公は栄蔵さんの名取りだが今は出ない。妹の小初を始め、菊丸、一松、桃代と呼ぶ美人が居る。

三ツ本

主人公みすじ一人の動き、土地になじみの深い客をそらさぬ芸妓である。

鈴新成田

新中成田の分看板で、主人公若子は新中成田の妹である。小龍、まさ子と言ふ美形が居る。

分芳川

金太といふ土地になじみの深い中年増一人で八面六臂に働いて居る。

登美本

主人公富子は休んで居るが、とん子、富丸と呼ぶ若い可愛いらしい妓が居る。(電話小石川七八九五)

分新成田

新中成田の分看板で、主人公小若は同家の妹である。抱えには若菊、若龍と呼ぶ美形が居る。

金桐家

主人公は三業に功労のあつた故三枝鶴吉氏の細君、今は出ぬが、兒太郎といふ可愛い妓が居る。(電話小石川四三八五)

春梅本

梅本の分看板、主人公壽々子は澁い中年増、抱えなしに只一人で大に働いて居る。

分富島

富島の分看板であるが、主人信香は休業中、抱えには、きみ香、うさき、万太郎と呼ぶ売ッ妓が居る。(電話小石川五〇一八)

分叶

主人公さかゑは中年増の様子の良い芸妓で、外に栄次と呼ぶ抱えが居る。

福本

主人公をお福と呼ぶ、妹の恋香は白山一流の美人で、清元の名取りである。(電話小石川二〇八九)

花柳

主人公お梶は白山一流の芸妓で、踊りは名取りの姐さん株。

藤の家

主人公里千代は色ッぽい美しい芸妓、半玉おかる時代より土地になじみの深い売ッ妓である。(電話小石川五四五二)

新近衛

主人公節子は休業中、此の人は非常な美人で、若い頃は江戸川美人と言はれた程であったが、抱えには小蔦、ひな子、小荼目、ぼん太と呼ぶ可愛い妓が居る。(電話小石川一九七二)

松金桐

金桐家の分看板、主人公ぼたんは白山一流の美人。(電話小石川七二〇二)

柳家

最近待合から転業したが主人公は出ぬ、秀手代は休業中で照次一人で働いて居る。(電話小石七〇八一)

初三浦

三浦家の分看板、主人公桃太郎は清元の名取りで、若手の美人である。

咲浜沢田

浜沢田の分看板、主人公浜吉は清元のうまい中年増である。

揚羽家

故幇間チヨン髷として知られた揚羽屋徳次の家であつた。現在かなめ、歌丸と呼ぶ可愛い妓が居る。

分宝家

主人公栄太郎は最近宝家より分看板を貰つた人、座持ちのうまい面白い芸妓である。

初金久

主人公妻奴は最近金久元から分看板を貰つて自前となつた同じく坐持のうまい芸妓である。

初むら

主人公節彌は近衛の妹で、最近御披露目をした許りであるが、却々に程の良い芸妓である。

初分真桝

分真桝の分看板で、主人公色香は中年増の土地になじみの深い芸妓である。

山田家

主人公門松は元金桐家で腕を鳴らした芸妓であつたが、最近一戸を持つて自前となつた許り。

尚此の外に鶴本、浜福、宝家、叶家、由の家、末広家、徳元、一春本等の芸妓家があるが、目下休桑中である。